フリーペーパー特集記事第一弾!「来るぞ!ベトめしの風。」ベトナム料理は北部・中部・南部と大きく分けて3つあり、それぞれの特色とおいしい「ベトめし」を3人の女性に紹介してもらいました。今晩はベトめしかな。


近ごろ、日本でも人気のベトナム料理。
でも、生春巻きとフォーしか知らない、なんて人も多いのでは?
ところが、現地へ行けば、まだ知られざるおいしいごはんがいっぱい。
また、南北に細長い地形を持つベトナムは、
ひと言にベトナム料理といっても、
地域によって味や素材もさまざまなのです。
今回は、ベトナム料理に精通する3人の女性に、
それぞれが推薦する地域の料理の魅力を語っていただきました。
そこで見えてきたのは、ベトナム料理とは日本と同じく
”お米の国のごはん“であること。
ならば、バラエティーに富んだベトナムごはん(=ベトめし)が、
日本の食卓に並ぶ日も近いかもしれません。


   
日本料理やフランス料理のように、○○料理という言い方は、
どこか堅苦しい印象を受けませんか?
でも、本来、食事とは、家族や友人と大勢でわいわい楽しみながら食べるもの。
ベトナム料理も然り。そこで私たちは、
ベトナムのごはんをよりリアルに感じてもらうために、
ベトナム料理をあえて“ベトめし”と呼ぶことにしました。
では、ベトめしってどんなごはんなの?
 
 
取材・写真/福井隆也 文/石渡真由美

 




  日本のおかずに必ず醤油を入れるように、ベトナムではどんな料理にでも、ヌックマムという魚醤を使います。ヌックマムには魚の臭みがややあるものの、魚の旨みを知っている日本人には比較的馴染みやすい味です。
また、ベトめしはタイ料理のように辛さを強調しません。料理の味付けは全体の8割くらいにおさえ、残りの2割は食べる人の好みに合わせて、唐辛子やライムなどを加えて味を調えます。




  ベトナムは日本と同様に南北に細長い地形を持つ国。南国のイメージが強いベトナムですが、北部には四季があり、冬には10度を下回るところもあります。当然、地域によって手に入る食材も異なり、料理の種類や味付けにも地方色が表れます。
今回は、ベトめしを研究している3名の方に、南部・中部・北部のそれぞれの料理の特徴と魅力を語っていただきました。おいしいベトめしを求めて、ベトナムを旅してみませんか?


 ベトナムは日本と同様にお米を主食とする国です。日本でもお馴染みの生春巻きやフォーも、元をたどればお米から作られています。しかし、日本では知名度の高いそれらの料理は、実は本国では数ある軽食のひとつにすぎません。
ベトナム人が“ごはん”として食べるものは、白いごはんを中心とした食事のこと。日本の食事で「一汁三菜」という言葉があるように、ベトめしも白いごはんがおいしく食べられるようなバランスの取れた献立が繰り広げられます。メインとなるおかずは味付けがしっかりとした肉料理や魚料理。それに副菜や野菜料理が加わります。そして、日本の食卓に味噌汁が欠かせないように、ベトナムの食卓にも汁物は必須。ベトめしには、日本のごはんと共通している点がたくさんあるのです。

 
 
 
 
北部料理ナビゲーター
kitchenオーナーシェフ 鈴木珠美さん

 東京・西麻布にあるベトナム料理店kitchen(キッチン)は、連日予約で席がうまってしまうほどの人気店。その店のオーナーシェフである鈴木珠美さんが作るベトめしは、素材が持つ旨みにほんのり塩味を効かせた北部流。


「北部の料理はよくしょっぱいと言われるけれど、それは南部の料理に砂糖を入れすぎているから。北部の料理はしょっぱいのではなく、素材本来の味を生かすために、シンプルに味付けをしているのです」と、大の北部びいきの鈴木さん。
鈴木さんはかつて、ベトナム料理を学ぶために、首都ハノイに暮らしていました。そこでは、南部料理のような華やかさ
はないけれど、四季のある北部ならではの旬の素材を使った料理や、食材が少ない故に生み出された乾物をうまく利用した料理に出合うことができました。


一年中常夏で、昼寝をしていても作物が実るという南部と違って、夏は高温で多湿、冬は10度を下回ることもある厳しい気候の北部では、作物の収穫にも限りがあります。また、長く続いた戦争で、食糧難を経験している北部の人たちは、カボチャなら花や茎、種に至るまで、食べられるものはまるごと食べます。
「日本ならカボチャは実しか食べませんが、実はカボチャの花や茎は炒め物にするとおいしいんですよ。そんな発見ができるのも、厳しい気候と歴史の中で暮らしてきた北部だから。北部には暮らしの知恵から生まれた料理がたくさんあるのです」。

kitchenオーナーシェフ 鈴木珠美さん

1973年、茨城県生まれ。
料理専門学校を卒業後、フードコーディネーターの職を経て、1999年にベトナムへ留学。ハノイに1年半滞在し、現地の料理教室や一般家庭でベトめしを習得した。帰国後、2002年に東京・西麻布にベトナム料理店kitchenをオープンし、以後、多数の雑誌、料理講習会で、ベトめし普及活動に力を注いでいる。「ベトナムおうちごはん(扶桑社)」など、多数の著書もあり。


< kitchen.(キッチン)
住所:東京都港区西麻布4-4-12
ニュー西麻布ビル2階 TEL:03-3409-5039
営業時間:18:30〜23:00(22:00L.O) 土日・祝日休

ターメリックや調味料に漬け込んだ白身魚を揚げ焼きにし、細ねぎとディルを混ぜて食べるハノイの名物料理Chaca(チャー・カー)。ブンというベトナムの米粉麺の上にのせ、白髪ねぎや香菜、ピーナッツをトッピングし、オリジナルのタレをかけて食べます。

四季のある北部では、その季節ならではの旬の素材を生かした料理を味わえるのが醍醐味。青米を衣にまぶしたTom ran com(トム・ザン・コム=海老の青米揚げ)は、お米が収穫される秋が旬の料理です。



 
中部料理ナビゲーター
ベトナム料理研究家  伊藤忍さん

 Bun bo Hue(ブン・ボー・フエ)は、牛や豚、レモングラスを煮込んだスープをマム(アミの発酵調味料)で調味し、サテ(レモングラスと炒めた唐辛子のオイル漬け)を加えて辛味を付けます。具は牛肉や豚肉で、裂いた空心菜の茎やバナナの花のつぼみ、もやしなどを添えます。


ベトナム料理研究家の伊藤忍さんは、自他共に認める大のベトめしフリーク。そんな伊藤さんがベトナムで一番おいしい!と薦めるのは、中部地方のフエ料理です。「フエ料理は見た目が美しいだけではなく、味付けもとても手が込んでいます。たとえば、フエの代表的な麺料理であるBun bo Hue(ブン・ボー・フエ)は、牛や豚、レモングラスを使ってスープのダシを取るなど、一杯のどんぶりの中にさまざまな素材を盛り込んでおり、ヌックマムや砂糖などの調味料だけでは出せない深みのある味を生み出しています。また、トッピン グの野菜は細かく刻んで食べるなど、食感を楽しむ工夫もされていて、フエ人の料理に対する情熱には驚かされます」と伊藤さん。 フエは、かつてベトナム最後の王朝である阮朝の都があった街。その時代の王宮料理には、1回の食事につき約30〜50品目の料理が並べられたといわれています。そんな食通の王様は、宮廷で作る高級料理だけでは満足できず、庶 民たちにもおいしい料理を作らせ、今でいう料理コンテストのように競わせて、献上させていたといいます。そのため、フエの人々は日常で食べる料理にも手をかけることを意識してきました。

ベトナム料理研究家 伊藤忍さん

1972年、神奈川県生まれ。
短大卒業後、フードコーディネイターとして働きながら、休暇のたびにベトナムを訪れ、料理を学ぶ。その後、2000年から約4年間、ホーチミンに暮らし、ベトナムの家庭料理と郷土料理を習得。帰国後は、横浜の自宅でベトナム料理教室An Com(アン コム)を主宰する一方、ベトナム料理店のプロデュースやメニュー開発など多方面で活躍。著書に、写真家の福井隆也と共著で「ベトナムめしの旅」「ベトナムめし楽食大図鑑」(ともに情報センター出版局)などがある。
ベトナム料理教室An Com(アン コム)http://www.vietnamfoodnet.com/


また、フエの料理の特徴として、唐辛子の“辛味”があります。フエを中心とする中部地方は山が多いため、天気が変わりやすく、厳しい環境の中で生活をしなければなりません。そのため、それに打ち勝てるようにと刺激の強いものを食べるようになったといわれています。 かつて王朝の食卓にも並んだ庶民料理のCom hen(コム・ヘン)は、ご飯にシジミ、刻んだ野菜、ピーナッツなどをのせ、温かいシジミ汁をかけて、お茶漬けのようにして食べます。


 
南部料理ナビゲーター
ベトナム料理教室
Nam Bo(ナン ボー)主宰
高谷亜由さん
 ベトナム南部を代表する家庭料理Ca kho to(カー・コー・ト)は、土鍋で作る魚の煮付け。濃厚な甘みとしょっぱさで、白いごはんがどんどん進みます。
  ベトナム料理教室NamBo(ナンボー)は、高谷亜由さんが主宰する京都の料理教室。教室名のNamBoは、ベトナム語で“南部”を意味します。それほどまでに高谷さんが南部に惚れ込んでいる理由は、南部料理ならではの ”味のバランス“。



一般に南部料理は、砂糖の量がとても多く、甘すぎるという印象を受けます。
けれども、高谷さんは「確かに砂糖をたくさん入れるけれど、南部料理はただ甘いだけの料理ではありません。その中にはヌックマムの塩辛さと、果物などの酸味がバランスがよく取れているんですよ。
砂糖の甘みを足すことで、甘み・辛味・酸味を割り算できるのが南部料理なのです」と力説。



なかでも高谷さんのお気に入りは、Canh chua(カイン・チュア)というタマリンドやパイナップルなどで甘酸っぱく仕立てた魚のスープと、Ca kho to(カー・コー・ト)という甘しょっぱい魚の煮付け。

ベトナム料理教室Nam Bo主宰 高谷亜由さん

1979年東京生まれ、京都育ち。大学在学中、夜間に料理専門学校に通い、調理師免許を取得。北部料理をナビゲートしている鈴木珠美さんのお店kitchen(キッチン)や、東京・江古田のマイマイなど、日本で人気のベトナム料理店で修業を積みながら、年に数回、ベトナムへ通い本場の味を習得。2006年より、京都でベトナム料理教室NamBo(ナンボー)を立ち上げ、ベトナム料理を関西地方に普及するために活動中。

ベトナム料理教室Nam Bo(ナン ボー)http://www.geocities.jp/vietnam_nambo/

この2つの料理は南部を代表する家庭料理で、カー・ロックという川魚をまるごと一匹使って作ります。「頭と尾はスープのダシに、胴は煮物にというように、魚一匹をまるごと食べるので、食材をムダにしない作り方がとても気に入っています。また、スープひとつとっても、たくさんの野菜や果物を使えるのは、温暖な気候で、一年中食材に恵まれている南部ならではの魅力だと思います」。


現地と同じような食材をすべて揃えるのは難しいけれど、甘くて、しょっぱくて、酸味の効いたこれらベトめしは、白いごはんが主食の日本の食卓にも合いそうです。

 

 

写真提供:福井 隆也 Fukui Takaya
 
 
 
 
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